上野コレクション 

 
  京都国立博物館には、当財団の基本財産を拠出した上野家旧蔵の中国の書跡・絵画など計 163 件からなる「上野コレクション」があります。書聖・王羲之(おう・ぎし)の草書を今に伝える法帖(ほうじょう)として世界的に知られる「十七帖(宋拓)」や、清時代のツ寿平(うん・じゅへい)筆=重要文化財=など、中国書画の正統に連なる作品群です。これらは京都国立博物館が所蔵する中国書画の中核をなしています。
 このコレクションは朝日新聞創業者の一人、上野理一翁(号・有竹斎、 1848 〜 1919 )が収集しました。明治初年以来、我が国の古美術品が海外に流出するのを憂えた理一翁は古美術品を精力的に収集し、朝日新聞社の共同経営者、村山龍平翁とともに美術雑誌『国華』を創刊、育成に努めました。
  理一翁が中国の古書画に目を向けたのは、朝日新聞記者から京大教授に転じた東洋史学の大家、内藤湖南( 1866 〜 1934 )の言がきっかけでした。北京で著名な収蔵家が秘蔵する古書画を数多く見て回った湖南は、これまで日本に渡ってきた中国の古書画が「格調の高い正統なものではない」ことに気付きました。折から中国では辛亥革命( 1911 )がおこり、今度は中国から貴重な古美術品が続々と日本に流出してきました。理一翁は湖南や中国文化人のアドバイスを得て、中国古書画の系統的な収集に乗り出したのです。
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 理一翁のコレクションは 1960 年、子息で当時の朝日新聞社主、故上野精一氏が京都国立博物館に寄贈しました。その 10 年後、やはり理一翁が収集した鎌倉初期の代表的な仏画の名品「山越阿弥陀図」(国宝)の売却金で当財団が発足しました。
 中国書画の寄贈から半世紀を経た 2011 年 1 月〜 2 月、京都国立博物館で特別展「上野コレクション寄贈 50 周年記念 筆墨精神〜中国書画の世界」が開催され、上野コレクションの優品と各地の博物館、寺院、上野家などが所蔵する関連資料が展示されました。時代を超えて受け継がれた「本流の古典」が日本文化と日本人の感性をさまざまに培ってきたことを実物で示すと同時に、日本と中国の深い縁を改めて思い起こさせる機会となりました。

 
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